
大学博物館で植物の研究をしている、遠藤さんのコラムです。
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| No.064 猫じゃらし ねこのしっぽは1つじゃない話。 10月22日 水曜日 遠藤です。みなさんこんにちは。 猫じゃらし、ご存じですよね。 実際にネコをじゃらしたことがある方も多いのではないでしょうか? 特に若いネコだと、本当におもしろいように遊んでくれます。 猫じゃらしは別に、ネコをじゃらすために生まれてきたわけではないのですが、あつらえたように、ネコをあやすのに向いている植物ですよね。 私の家には近所のネコがよく遊びにきますので、猫じゃらしでじゃらして遊んでいると時間の経つのを忘れます。 ![]() 植物に詳しい方なら猫じゃらしは本当の名前ではなくて「エノコログサ」と言う、なんていうこともご存じかもしれません。 猫じゃらしを見ない日はないのではないかと言うほど、猫じゃらしがたくさんありますね。 猫じゃらしかそれ以外の植物かどうかは比較的簡単に区別することができますが、 猫じゃらしは1種の植物なのでしょうか? 種明かしを今回は先にしてしまうと、猫じゃらしの仲間は日本では街で普通に見られるものだけでも4種が生えています。 これは、私の家のそばを5分くらい歩いて見つけた4種の「猫じゃらし」です。それぞれの種は同じ所に生えているとは限りませんので、ちょっと引っこ抜いてセブンイレブンのコピー機を使ってコピー取ってみました。 ![]() 左から アキノエノコログサ エノコログサ キンエノコロ オオエノコロ といいます。 猫じゃらしという語を広辞苑で引いてみると 「穂で猫をじゃらすことからエノコログサの異称」 と書いてありました。 猫じゃらしというのは上の4種の写真の中では正確にはエノコログサしか指さないようです。 これらの、猫じゃらしの仲間は「イネ科:エノコログサ属」という植物のグループに属しています。 イネ科の植物は花がとても小さく、花弁(花びら)もなく、またどれも同じようなかたちをしているので、見分けにくいことで知られるグループです。 これから、みなさんと、簡単にこの4種を区別する方法を考えていきたいと思います。 この4種の中ではエノコログサとアキノエノコログサが一番似ていますよね。 猫じゃらしの仲間は花がたくさん茎の上の方に集まってつくのが特徴です。猫じゃらしのじゃらすところ、毛がついているつぶつぶの1つ1つが花なのです。 また、花の集まっているところ全体をさして花序と呼びます。 エノコログサは ![]() ![]() というように、花序が比較的短くてピンとしているのがエノコログサです。 そして、アキノエノコログサは ![]() ![]() このように、花序は長くしかも、曲がっているのがアキノエノコログサと考えて良いでしょう。 遠くから見て花序がだらんと垂れていれば、ほぼ間違いなくアキノエノコログサです。 ピンとしていればエノコログサ。簡単ですね。 ちゃんと調べるためにはルーペを使った検定が必要です。ここで詳細はお話ししませんがここまでわかれば、あとはこの2種を図鑑で調べれば更に確実に同定することができます。 ![]() ![]() キンエノコロというのは、名前でもわかるように花序の毛が金色ですので、すぐにわかると思います。 ![]() さて、最後にのこったオオエノコロですが、今まで紹介してきた3種は花序が枝分かれしないか、してもごく短いものです。花序は茎に密についています。 ところが、このオオエノコロは花序が枝分かれするのです。 ![]() オオエノコロの花序を垂直方向に縦切りしてみました。例えば赤い矢印のところで枝分かれしています。 花序はピンとしていますので、花序が大きく、花序を調べると花序が特に下の方で枝分かれしているのを確認すればオオエノコロ、と言っていいでしょう。 これで、みなさんも難しい知識や、ルーペが無くても遠くからでもほとんどすべての猫じゃらしの仲間を見分けられると思います。 猫じゃらしはそれこそ、どこでも生えていますから、通勤通学のちょっとした時間にこのコラムを思い出して観察して、同定をしてみるとおもしろいと思います。 しかしアキノエノコログサやオオエノコロが実は猫じゃらしでなかったとしても、ネコはきっと喜んでじゃれてくれるでしょうね。 No.063 風景の点描 キンモクセイ 10月8日 水曜日 ![]() 幼稚園の前の道を通って、駅へ向かう途中。 オレンジ色のキンモクセイの花を詰めた紙袋を見つけました。 良い香りを自分のものにしようとしたのでしょうか? それとも、お母さんへのおみやげ、だったのでしょうか? キンモクセイの香りはとてもすてきですよね。 香りは、夜の方が引き立つように思いますが、みなさんはいかがですか? 人間は目から得られる情報が多いときはほかの情報はセーブされていると聞きます。 ですから、まわりが暗い分だけ嗅覚が研ぎ澄まされているんでしょうね。 私のいつも使う道はキンモクセイがたくさん植えられています。 遠くの月を見ながらキンモクセイの香りに包まれる。 心地よい帰り道をしばらくは楽しめそうです。 キンモクセイは雄の木と雌の木があって、日本では雄の木しかないので・・・ ・・・こんな時には植物の知識なんていらないですよね。 心をオレンジで、いっぱいにすればいいのです。 No.062 シーボルトの21世紀 おしば標本の今日的意義 10月4日 土曜日 遠藤です。みなさんこんにちは 今回は植物の標本についてお話ししたいと思います。 植物で使う標本はいくつかの種類がありますが、主に使われる標本には「液浸標本」と「おしば標本」があります。 液浸標本はホルマリンや、アルコールに漬けて保存する方法で、植物の立体構造を保持するという利点がある一方、標本によって大きさが異なり、また、ホルマリンやアルコールは揮発性が高いので長期間の保存には向きません、更に保存にはガラス瓶を使うため安定して保存することが難しいのです。 一方おしば標本は植物を「おしば」にして乾燥させ、保存する方法です。みなさんも教科書や辞書のあいだに葉を挟んで「おしば」を作ったことがあると思いますが、そのプロフェッショナル版です。 辞書のあいだに挟む押し葉と所が違うかというと・・・ 一つ目に違うところは、押しは標本は必ず「台紙」に貼られるということです。 台紙にはることで、標本を壊さずに持ち運びやすく、しまいやすくすることができます。 二つ目は大きさです。プロの使うおしば標本は新聞の半分の大きさになっています。 なぜ新聞の半分なのかというと、おしばを作るときに新聞に挟んで乾燥させるからです。 おもしろいのは標本の大きさが国によって異なることです。例えばソ連時代のロシアの標本は日本の標本棚に入らないくらい大きい物でした、それはソ連の新聞「プラウダ」の紙面が大きかったことに由来しています。 三つ目は標本のデータを記入していることです。 標本を研究に使うために最低限必要な情報は、採集地と採集日時の情報です。 ・・・ところで、みなさんは正式な「おしば標本」を見たことがありますか? ![]() こんな感じで、台紙に押し葉になった植物が貼られており、植物名、採集者、採集地点、採集日時が書かれた紙片(ラベル)が貼られています。 この標本いつ作られたと思いますか? 正解は1823年。180年も前に採集された標本なのです。 標本は博物館の中でも特に標本を専門に保存する博物館に保存されます。 博物館行き、なんて言われるときは「大事だったけれど、もう使われないもの」というイメージが強いですが、博物館に保存される植物標本は180年前のものであっても今でも最新の研究の対象となります。 その役割の1つは、学名の出発点としての標本の役割です。 先ほど見たTypeと書かれた標本がその植物の学名の元になった標本ですべての標本の中でも特別な意味を持つ標本なのです。 ![]() 先に示した写真にも赤いマークがしてありますが ![]() ここにも書いてありますね。 この標本はクリですが、クリという名前(学名)はこの標本を元にして決まっているのです。 もしも、将来クリがクリと、クリによく似ているもののクリとは違う種との2つの種が混ざっていることがわかったとき、2つに別れた集団のどちらに先ほどのタイプ標本が含まれるかで、どちらが「クリ」を名乗れるかが決まってくるのです。 2つ目はDNAバンクとしての役割です。 植物のDNAを使った研究は近年様々な研究に使われます。数年前から乾燥した標本でもDNAを採ることが簡単にできるようになってきました。そこで、絶滅してしまってもう、標本しか残っていない種の標本からのDNAの採取をして、その植物の優れた性質を現在生きている植物に導入する方法などの研究がなされています。 3つ目は環境を測定する資料としての役割です。 標本の収蔵庫を見ると、同じ種の標本がたくさんあります。同じ種なのになんでたくさんあるのか?と思う方も多いようですが、種の変異を知ったり、その種の分布を知るというそもそもの必要性だけではなく、同じ地域で何百年も採り続けられた標本の葉の裏の汚れから大気汚染の歴史を調べるというような学際的な研究も行われています。 おしば標本は長期保存のために温度や湿度を厳重に管理されたおしば標本庫(ハーバリウム)に収納されており、一般のひとが見ることは普通はできません。 普段は見ることのできないおしば標本ですが、今月4日から東京大学総合研究博物館で行われる「シーボルトの21世紀展」でたくさんのシーボルト自身が採集した貴重なおしば標本が展示されます。 ![]() シーボルトというとみなさんは何を思い出すでしょうか?シーボルトと言えば日本に西洋の医学やその他文化を、ヨーロッパには日本文化を紹介した人物として広く知られています。 植物がお好きな方なら彼の日本での妻、楠本滝を記念して付けたアジサイの学名(Hydrangea otakusa:「おたきさん」から。しかし後の研究で現在はこの学名は使用されいない)を付けた人ととして記憶に残っている方もいらっしゃると思います。 ![]() これが、シーボルトの採集した「アジサイ」の標本です。彼はこれらの標本を元にして、「フロラヤポニカ(日本植物誌)」を作りました。 フロラヤポニカのアジサイのページを見てみましょう。 ![]() この図譜はすべて手彩色で1冊1冊画家が色を付けてカラーの図版にしています。 シーボルトは植物だけを研究したのではなく日本の民俗や ![]() 日本の動物も ![]() ![]() このように詳細に調べて、図譜を出版していたのです。 今までお見せした写真は、すべて「シーボルトの21世紀展」の展示の資料です。 博物館学的にも世界初となる標本の垂直展示など、大学博物館でなければできない斬新な展示方法の冒険をしています。 ![]() 駆け足の紹介となってしまいましたが、そもそも、なぜシーボルトは日本の植物に特に興味を持つようになったのか、その秘密も今回の展示で明らかにされています。 お時間のある方は是非シーボルトの採集した実物の標本や実物の図譜をみていただきたいと思います。お近くにお寄りのさいはぜひ、お立ち寄りください。 「シーボルトの21世紀展」 平成15年10月4日から12月7日まで 開館時間は10時から午後5時までで、休館日は月曜日。 入場は無料です。 お問い合わせはハローダイヤル 03-5777-8600 地図は http://www.um.u-tokyo.ac.jp/museum/access.html 博物館のURLは http://www.um.u-tokyo.ac.jp この展示は10月3日の朝日新聞朝刊1面、また、asahi.com http://www.asahi.com/science/update/1003/002.html でも紹介されていますので、合わせてご覧ください。 No.061 葉のかたちと葉脈 運河をたどろう 10月1日 水曜日 遠藤です。みなさんこんにちは。 前回はスペースフレンド2003の様子を紹介して、葉脈のレプリカ標本を作るお話をしました ![]() このようなきれいな標本ができていましたね。 葉脈レプリカ標本は特別な機械は必要ありません。紙は、みなさんお使いのプリンタ用紙やコピー用紙で十分ですし、印刷用のローラーと、インクは画材店で版画用のものを簡単に購入することができます。 ローラーが1000円くらいと高いのでちょっと試したいという方は100円ショップで売っているカーペットのほこりを取る粘着シート式ローラーを使っても良いですね。 買ったままの状態で最初のシールをはがさずに使えば代用することができます。 レプリカ標本で印刷された葉脈というのは、なんのためにあるのかというと、葉に水分を供給し、光合成でできた有機物を運び出すためにあります。 いわば、「運河」に例えることができます。 葉のかたちは光に当たる工夫等でそのかたちが自ずから決まってきます。そこで、必要な葉のかたちにを維持するために必要な運河を設計をする必要があります。 いろいろな方法で運河を設計する、そのやり方が「葉脈の模様」の種類となるのです。 簡単にいくつかの植物の「設計」を見てみましょう。 1)クリ ![]() クリの葉脈は大変シンプルですね。真ん中に大きな運河(主脈)をつくって、左右に平行な小さな水路(側脈)を作るというやり方です。 もしも、光の当たり具合の関係で葉の下側をハート形に面積が増やせることになったとします。そうしたら、どういう風にすればいいでしょうか? ![]() 左の葉から右の葉へかたちが変わったとき、どのようにすればいいでしょうか。 緑色の矢印で示した葉脈は延ばせば、右の葉は簡単に対処できますが、赤で示した葉脈を作ろうとすると、赤い矢印 A の部分が葉脈が空中に浮いてしまい、いままでの「クリ」システムの運河ではハート形の先端の部分に水を運ぶことができません。 どうやってこの状況を解決したらいいでしょうか。 1つは「クリ」システムを改良して適応する方法と、もう一つはまったく設計を変えて、与えられたかたちに適応した運河を設計するやり方とが考えられます。 2)アカメガシワ 観察してみるとアカメガシワだけではなく、多くの植物は「クリ」システムを改良したやり方を採用しているようです。 ![]() この葉脈レプリカ標本はアカメガシワです。 じっくりと観察していると、黄色い線で示した部分が、「クリ」システムを引きついている部分と緑の矢印を境に赤い線で示した部分が新しい改良部分であることがわかります。 新しい改良部分は緑の線を第2の主脈と見なして、「クリ」システムを2回繰り返し適用することで新しいかたちに適応していることがわかります。 模式図にしてみると、 ![]() このように、矢印Aで示したように空中に運河を造ることができないため、矢印Bのような運河を造っています。 さあ、その目でもう一度、アカメガシワの葉をよく観察してみると、 ![]() 実は、アカメガシワは「クリ」システムを2回だけではなく3回適用していることがわかります。 青い線で示したように、「クリ」システムを何回も適用することで、いろいろなかたちに対応させているようです。 3)トコロ 今度は、運河を設計する上でアカメガシワと全然違うやり方をしている例です。 トコロは、単子葉植物に属するので、運河(葉脈)をクリのように分枝させることはできません(単子葉類は平行脈でしたよね)。 ![]() クリと比べると横に広いという点ではアカメガシワとトコロとは同じ課題に取り組んだわけですが、トコロは、このように、運河自体を湾曲させることで課題をクリアしているわけです。 今回は3つの例だけを説明しました。 野外にはもっとたくさんのおもしろいやり方で葉の上に運河を築いている植物たちが生きています。 みなさんもどんな葉でも結構ですので、観察してみてください。それぞれのアーキテクト(建築家)のやり方を観察して欲しいと思います。 |
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