
大学博物館で植物の研究をしている、遠藤さんのコラムです。
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| No.073 猫の恩返しを見る 名前の持つ力と絵 1月31日 土曜日 遠藤です。みなさんこんにちは スタジオジブリの「猫の恩返し」というアニメーション映画を見ました。 ジブリスタジオの映画はどれも有名なのでみなさんはもう劇場などでご覧になっているかもしれませんが、お話の内容は、主人公ハルがひょんなことからトラックにひかれそうになった猫を助けてしまったために猫たちの“恩返し”として猫の国に招待されることになってしまい、気に入られてしまって猫の国にいる王子様のお后様にされてしまいそうになるお話です。 ハルの平凡な毎日をちょっとリセットしたい好奇心が起こす物語・・・といった内容で、とてもすがすがしいお話でした。 スタジオジブリのアニメーション映画はどれも、細かい背景までリアリティーを持って描かれていて、密度の高い映画だなと思いました。 私は、映画を見ていく途中で一カ所だけ、ちょっと心に引っかかった場面がありました。それは、 ![]() この場面です。 この場面はハルが猫のムタに導かれて「猫の事務所」に向かうところの1場面です。 この場面は全体で2秒か3秒しかないほんの小さな1コマなのですが、「なんかヘンだな」っていう思いがしました。 全部見終わってから、巻き戻しをしてその場面を再生しなおしてみました。最初見たときはなんか変な感じがするな、と思っただけだったのですが、見直してみるとどこに引っかかったのかがわかりました。 どこ引っかかったのかというと、右下にはえている「ヤツデ」の葉のかたちが何となくおかしいなと思ったのです。 みなさんはどこがおかしいと思いますか? ちょっと拡大して、葉の「指」の枚数を数えてみましょう ![]() みんな8つの指を持っていることがわかります。 以前みなさんと一緒に考えてきた、ヤツデの話を思い出されましたか? もしも思い出せない方がいらっしゃったら、ちょっとこちらのページで復習してみてください。 「No55 ヤツデの指は何本?」 http://www.macmem.com/endo/mb200308.html#055 どうでしたか?見ていただければわかりますが、ヤツデの指は7か9が多く、8はほとんどありません。指の数が1個違うということは、ただそれだけの小さな違いではありません。もしも、これが、7枚や9枚でなくて、5枚や11枚でも不自然だと思わなかったでしょう。 指の数が7や9の奇数から8の偶数になると、本来は葉の真ん中に大きな脈がありその左右に指ができてゆき、(真ん中+左右=奇数枚の指となるという)ヤツデの持つ葉のグランドデザインが大きく変わってしまいます。そのために、良く描けているのに不自然さが残ってしまう、ということが起きていたのです。 例えば、iMacを操作している手元がアップされたらキートップにWindowsキーが映っていた、そんな感じです。キーが1つ違うだけ、という問題ではないですよね。 この映画の中にでてくる植物をもう一回よく観察してみると、もちろん、植物の映画ではありませんので植物の絵はさして正確ということはありません。でも、不正確なら、不正確なりに自然に見える作画がなされています。 これは多分、実際の作画は写真等を参考によく観察してその上で抽象化して描かれているからではないかと思います。時には外にでて実際の植物を観察しているのではないでしょうか? ただ、このヤツデだけは作画をした人が「ヤツデ」という名前に引きずられて、「指は8本あるはず」と思い、実物を観察したはずの自分の目からの情報がマスキングされてしまったからなのではないかと思います。 このように、「名前」というのは便利なものですが、一度名前を聞いてしまうとそれで安心してしまって対象をよく見ることがおろそかになることがあります。 私たちの日常生活でも「レッテルを貼る」とか「色眼鏡で見る」なんて言いますが、気をつけたいですね。 No.072 サクランボからキイチゴへ サクランボををCopy & Pasteして作るイチゴの進化 1月21日 水曜日 遠藤です。みなさんこんにちは。 今回は、果実の構造と進化の3回目です。 ケーキ屋さんに行くと、こんな風に ![]() イチゴのケーキと、キイチゴのケーキが対になって売っていたり、両方乗っていてダブルベリーなんていうのもありますよね。 今回は果実の構造の中でイチゴとキイチゴについてお話ししたいと思います。 今まで私たちはサクランボ型果実の種子を増やすことでサヤエンドウ型の果実ができたり、 ![]() サヤエンドウ型の果実を束ねることでキウイ型の果実ができることを一緒に見てきました。 ![]() イチゴと、キイチゴの果実はどんな風にできているのでしょうか? イチゴはどんな植物のグループかはみなさんよくご存知かと思いますが、キイチゴはどうですか?どんな植物のグループか想像できますでしょうか?名前の通りイチゴが草となるのに対してキイチゴは木となる植物です。 木と言ってもリンゴの木のような大きな木になるわけではなく、幹の太さは太くても2ー3センチほどの背の低い木です。 キイチゴをご存知なくてもキイチゴのグループに属するブラックベリーや、ラズベリーはどうですか? そうです、キイチゴとはそうした植物の仲間なのです。イチゴと、キイチゴの果実の形が頭に浮かんだでしょうか? 先ほどのケーキに乗っているイチゴを見てみましょう ![]() イチゴの果実はどれかというと、実はイチゴの赤くておいしい部分ではなくて、青い矢印で示した「つぶつぶ」の部分だけが果実なのです。 では、赤くておいしい部分は何かというと、花床といって、雄しべ、雌しべ、花びら、萼(ガク)を一つの花としてとめておくためのジョイントとなる部分です。イチゴを花の時から見て行くとよくわかるのですが、イチゴの花のジョイントとなる部分が膨らんで、甘くなったものを私たちはイチゴの果実だと思って食べているわけです。 イチゴのつぶつぶをよく、「いちごのたね」と呼びますが、実はあれは種子ではなくて果実なのです。 今までこのコラムで何回もすてきなイラストを書いてくださっているあじこさんは、ペンネームがこの号からかわって、川方桜子さんとなりました。川方桜子さんのイラストを見ながら、果実の構造を一緒に見てみましょう。 ![]() イチゴの場合はこのように花床(ここが食べておいしい部分となります)の上にたくさんのサクランボ型果実が付いているような構造をしています。 イチゴとサクランボとの違いは、果実の数が多いというだけではありません。サクランボの場合はこのあと果肉が発達してみずみずしい(おいしい)部分になりますが、イチゴの場合は果肉の部分はほとんど発達しません。このため、イチゴのつぶつぶが果実だとは気がつかれにくいのです。 逆に、つぶつぶの果実の中には1つの種子が入っているところはサクランボと同じです。 イチゴの果実の構造はわかっていただけましたか? ではつぎに、キイチゴの果実の構造を見てみましょう。 イチゴとキイチゴは形はよく似ていますが、キイチゴとイチゴのもっとも大きな違いは「おいしい部分」がイチゴの場合は果実ではないのに対してキイチゴは果実そのもの(果肉)だということです。 イラストで示すとこんな風になります。 ![]() もう、みなさんなら、簡単にこのイラストを読み解くことができると思います。 イチゴで(おいしい)部分はキイチゴでは細くて、堅く、食べられません。 そのかわり、一つ一つの果実の果肉がみずみずしくなり「おいしい部分」となるわけです。 キイチゴを食べるとぷちぷちと心地よい歯ざわりがするのを覚えていらっしゃると思いますが、それは、キイチゴの一つ一つの果実がサクランボと同じように堅い核を持っているからです。サクランボでは堅い核はかみ切ることはできませんが、キイチゴの核は果実が小さいために容易にかみ切ることができ、あのプチプチとした食感となるのです。 サクランボや、キイチゴに核がある理由はよくわかっていませんが、これらの果実を食べる動物の糞を解析すると、中から核と核によって守られた種子が無傷で出てきます。 このことから、果実を動物に食べられても次世代を担う種子は消化されて死んでしまわぬように、そして、できれば種子を動物に運んでもらいたいというねらいもあるでしょう。 ちなみに、キイチゴやサクランボの果実で種子を守る堅い核は親の体でできています。やっぱり、子供を守ろうとする親心はこんなところにも現れているんですね。 No.071 あけましておめでとうございます フウセンカズラの種子とサル 1月9日 金曜日 遠藤です。みなさん、あけましておめでとうございます。 今年も、モバイルガーデンをよろしくお願いいたします。 ![]() この写真はフウセンカズラという植物の種子です。 あれれ、どこかに1つだけ、サルがいますよ。 私はフウセンカズラの種子は猿の顔に似ていると思ったのでちょっとサインペンで目を書き足してみました。 フウセンカズラは学名はCardiospermum halicacabum L.といいます。属名のCardiospermumはラテン語のCardia(心臓)+Sperma(種)の意味です。 種子を見ると「ハートの種子」の意味は簡単にわかりますね。 この植物は日本語では「フウセンカズラ」、英語では「バルーンベイン」といいます。 かずら(葛)も、ベイン(Vine)もどちらもツルの意味ですから、ツルになった風船という意味ですね。 この植物の果実は ![]() こんな風に、風船のようです。右側の黄緑色の果実は若い果実、成熟すると左側のように褐色となります。中身はどんな風になっているでしょうか? 横切りにしてみました。 ![]() フウセンカズラの果実は3つの部屋からなっており(3つのサヤエンドウ型果実 *1)が結合してできています)一つの部屋に1つずつ種子が入っています。 そして、種子の向きに注目すると、ハート形の白い模様は必ず中心を向いて付いていることがわかります。 せっかく種子を手に入れたので、今年はこのフウセンカズラの種子を庭にまいて観察してみようと思います。とっても小さな白い花が咲くそうなので楽しみにしています。 *1) サヤエンドウ型果実については http://www.macmem.com/endo/mb200312.html#070 を参照してください。 |
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