大学博物館で植物の研究をしている、遠藤さんのコラムです。
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No.080
スプリングエフェメラル
春の妖精と呼ばれる植物
4月19日 月曜日

遠藤です。みなさんこんにちは。

☆雑木林☆

人間の手が入った、管理された林を里山林といいます。一般には雑木林などといわれており、落葉樹と呼ばれる葉が冬に落ちてしまう樹種からなる林をいいます。普通私たちが森とか林を想像したときにはこうした雑木林を指すことが多いのではないでしょうか?

一年中、葉が茂っている針葉樹や常緑樹の林と比べて、雑木林はハイキングに向いています。

なぜって、常緑樹は一般的に葉が厚く、光をあまり通さないのでこうした木の下は1年中暗く、じめじめしていて、あまり気持ちが良くないのに対して、雑木林は葉が薄く、光を比較的通すので歩いていても気持ちが良いものです。

特に、晩秋から春の雑木林は葉が落ちているので空も見えるし、落ち葉をさくさくと踏んで歩くのは大変楽しいものです。

☆雑木林の1年☆

雑木林の初夏、木々の芽が吹き、葉が展開して、夏には葉がしっかりしてきて一生懸命光合成をし、花を咲かせ、秋には実をつけ、そして、晩秋には葉を落とします。

冬は植物にとってはお休みの季節。すべての植物の活動はいったん中断されます。

雑木林の1年はこんな風にすぎてゆきます。

☆雑木林の下草たち☆

光を少し通すといっても雑木林の下に生える草(したくさ:下草といいいます)にとってみれば、光が少ないのでその分他の草との競争は少ないものの、草原で光を100%浴びて育つのに比べれば厳しい環境だと言うことができます。

雑木林の下草として生きてゆくには

・光が少なくても生きてゆける工夫
・光のある時期に急いで生きる工夫

のどちらかの工夫をする必要があります。

ひとつめの工夫は、簡単に想像することができますが、2番目の「光のある時期に急いで生きる工夫」とはどんな工夫でしょうか?

☆雑木林の環境と春の妖精☆

雑木林の中の光量と植物が生きてゆくのに必要な光量、温度条件を模式化するとこのようになります。



オレンジの線が雑木林の中の光量を示します。

雑木林の中の光の量は冬が最高ですが、冬は下草たちにとっても厳しい環境、そして夏は温度は十分なものの光が足りません。

下草の植物が必要な光量、温度条件が満たされるのは緑の三角で示した部分、すなわち初春から初夏へのとても短い期間です。普通の植物では生育できないくらい短い時間で、芽を出し、葉をつけ、花を咲かせ、受粉をすませ、そして、実をつける。こんな「光のある時期に急いで生きる工夫」ができる植物しか雑木林の下では生きてゆくことができません。

このように早春に真っ先に現れ、とても短い期間で消えてゆく植物を春の先駆け、春の前兆という意味で「春の妖精」とか、「スプリングエフェメラル」(Spring Ephemeral:春のはかなきもの)などと呼びます。

☆カタクリ☆

そんなスプリングエフェメラルの代表的な植物に「カタクリ」があります。



昔は、この球根でカタクリ粉をとったほど、広く分布していたのですが、今は見ることすらまれとなってしまった植物です。



この写真はカタクリの自生地に掲げてあった生育の様子をグラフにしたものです。左から種子から始まって1年目、2年目、3年目・・・となり、葉が2枚となる7年目になってようやく花をつけることができるのだそうです。

カタクリは次の花をつけるのになぜそんなにかかってしまうのでしょうか?

これまで説明してきたように、スプリングエフェメラルが生育することができる時間は1年でも大変短い期間です。その間に光合成をして養分を球根にためるのですが、1年では花をつけるくらいの養分がたまらないため、花をつける力がたまるまでの間何年も葉をつけるだけで終わってしまうのです。



ということは、今、私たちが見ているカタクリの花の何倍もの球根が地下で花を咲かせるために待機していることになります。

カタクリはユリ科の植物なのですが、他のユリ科と違うところがあります。花を見てみると



雄しべが、まっすぐに付いていることがわかると思います。

一方、その他のユリは



このように、雄しべがTの形をしています。雄しべがTの形をしていると風で簡単に雄しべが揺れるので花粉が飛びやすくなっています。

Tの形の雄しべはまっすぐに付いた雄しべよりも進化的な形質と考えられ、その他の研究からもカタクリはユリ科の中でも原始的な植物であるといわれています。

スプリングエフェメラルな植物たちは氷河時代の遺存的な種であり、比較的原始的な姿のまま現在まで残っているものだと言われていますが、この例からもそんなことが言えるのかもしれません。

そして、雑木林の木々が芽吹く頃、春の妖精は跡形もなく去り、雑木林には夏がやってくるのです。


No.079
一枚の写真から
桜という栞
4月7日 水曜日



今日、読みかけの本を開いたら、淡いピンクの花びらが挟まっていました。

さくらは春先、街の木々がまだ葉を出す前に花を一斉に咲かせ、そしてあっという間に散ってしまいます。花のあまりない時期に一斉に、しかも大量に咲く圧倒力と、反対にその花の短命性のコントラストがさくらの印象を強くさせる理由でしょう。

私たちにはいろいろな記憶、思い出があります。忙しく暮らす私たちが一瞬でも、ふと空を見上げる時間。そんな共通の時間をさくらは提供しているのではないでしょうか。

現在、さくらと言えば「ソメイヨシノ」を指すことが一般的です。ソメイヨシノの木としての寿命は平均で約60年ほどと言われており、一般の樹木の中では花の命だけではなく、木そのものの寿命も大変短いのです。

咲き急ぐさくら、生き急ぐさくらに私たちは春という短い季節の記憶を重ねるのかもしれません。

1軒の植木屋で作られたソメイヨシノが日本中に広められたため、日本中のさくらはほとんど一本の木ということができ、そのため同一の地域ではほぼ一斉に花を咲かせます。古来「さくら」と言えば比較的控えめな花で、葉と花が同時に展開し、赤い葉が美しい「ヤマザクラ」を指しました。しかしソメイヨシノが作出されてからはソメイヨシノがもつ圧倒的な花の量のため「さくら」と言う一般名称の地位をソメイヨシノに譲り渡すこととなりました。

私たちのこころに春の栞を挟む役目するさくら。2004年のあなたのページにはどんな記憶がブックマークされたのでしょうか。




No.078
東京の真ん中のオアシス
意外と気が付かない、オフィス街の景色
4月1日 木曜日

遠藤です、みなさんこんにちは。
今日は特定の植物のお話ではなく日常の何気なく見ている風景を取り上げたいと思います。

さて、丸の内と聞いてまず何を思い浮かるでしょう。ビルに囲まれたオフィス街ですか、それとも丸ビルに代表されるような先端の複合ビルでしょうか。実は丸の内はとても緑豊かな景観に隣接しているのをご存知でしょうか。

私もつい最近まで殺風景なオフィス街というイメージを持っていたのですが、「丸の内シャトル」という無料の巡回バスに乗ったことでそのイメージが一新されてしまいました。ハイブリッドの低公害バス(乗り心地もまあまあ、何より走行中の音が静か)が10時から20時まで、東京駅を中心とした丸の内、有楽町エリアを(朝8時から10時までは別途ビジネスルートとして二つにルートが分割されています)無料で運行されています。

おおよそ15分間隔で運行されているという事ですが道路渋滞の激しくなる時間帯ではなかなか時刻表通りにはいかないようです。ビジネスユースにはちょっと難しいですが、プライベートでまた時間の余裕のあるときに乗ってみると丸の内のイメージが変わるかもしれません。途中下車しても、何度乗車しても無料ですから。

私が目を見張ったのは丸の内のオフィス街中心部を抜けパレスホテルにさしかかった辺りです。そこには見事なまでに緑溢れた皇居とそのお堀が広がっていたのです。確かに地図で確認すれば皇居と丸の内は隣接しているのですが、地下鉄の駅を降りて勤務先のビルへ直行している毎日の中ではなかなか気づかない風景です。

東京の中心にはこんなにも緑豊かな場所があったのだと再認識することができます。風景論の授業をとったことがあるのですが、世界的にもその国で中心的都市機能を有したエリアのまん真ん中にこれほどまでに緑の景観があるのは非常に珍しいケースなんだそうです。

公園などのパブリックスペースとしては外国でも大きな規模のものがある場合もありますが、日本の皇居の場合はある意味プライベートな空間(一般国民は立ち入れないという意味で)であり、パブリックな空間(日本国の象徴たる方々のお住まいであるということと、一般に公園として公開されている空間という意味で)があれだけの規模で混在しているケースはない、と講義で述べられていた記憶があります。

何分かなり前の経験なので現在そのまま当てはまるかどうかはわかりません。ただ非常に珍しいまでに大規模の空間が広がっている事は確かです。

桜の季節、皇居というと千鳥が淵など九段下方面を思い浮かべる方の方が多いかと思います。丸の内側は交通量の多い道路に面していますからゆっくり落ち着いて桜を愛でるという雰囲気ではありませんし何より桜そのものの本数も限られています。

皇居外苑まで足を運べば違うのかもしれませんが、内堀通りの大手門あたりは数本のしだれ桜と柳がお堀に影を映しているといった風情です。しだれ桜はまだまだこれから満開を迎えるといった具合でしたので、勤務先がお近くにある方は一度足を運んでみては如何ですか。

夜、外灯にほのかに浮かびあがるしだれ桜に新緑の柳を眺めながらの散歩もよいものです。一方、日比谷方面へ目を向けるとライトアップされた東京タワーやまばゆいばかりのビル群が目に飛び込んできます。皇居側の漆黒の闇と対照的な風景です。



最近は都心部ではヒートアイランド現象対策として屋上の緑化に力を入れているようです。また街路樹、ビルの敷地内のプランターなどコンクリートジャングルと思っていた街の中にも意外にも多くの植物の息吹を感じることが出来ます。



出勤時のいつもの歩調を少しゆっくりとして街中にある身近な植物を探してみませんか。


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