GMしらいしが、CD棚からiTunes棚に移した音楽のコラムです。
極私的な内容で、不定期に更新します。


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File No.021
July 23th 2003

King Crimson
In the Wake of Poseidon
(邦題:ポセイドンのめざめ)

ロバート・フリップのオーガナイズ力はジョブス並のカリスマ

マックメムGMのしらいしです.

前回,キング・クリムゾンのデビューアルバムを取り上げましたので,このまま彼らのディスコグラフィーを追っていこうかと思います.彼らのアルバムは1枚1枚が私にとっては宝物です.

1970年に発表されたキング・クリムゾンの2枚目のアルバムです.邦題は「ポセイドンのめざめ」とされていますが,これは日本の担当者のミステイク.本来は「ポセイドンの通った跡を追って」とでも訳されるべきものです.

大ヒットとなった"In the Court of the Crimson King"の次作が"In the Wake of Poseidon"と韻を踏んだ形になっている事から分かるように,この作品は前作と非常に良く似た姉妹作と言っても良いような曲の構成になっています.

しかし,バンド自体は前作の時のような奇跡的なコラボレーションとは全く反対の,完全に分裂した状態となり,その作業のほとんどがリーダーのロバート・フリップを中心として,必要なミュージシャンを寄せ集めてのセッションとなっています.つまり全体を把握しているのは彼一人で,あとのメンバーは呼ばれて演奏,はい次の人状態となってしまっていたわけです.

その原因となったのは,大ヒットとなった前作により思いもしないような注目を浴び,超多忙なスケジュールでのライブツアー(彼らのライブは,デビュー時から凄いもので,今でも沢山の名演奏ライブがパイレーツ盤や公式盤でリリースされています)が始まり,特に米国での多忙な生活がメンバーに影響を与えたと言われています.

前作の中心人物であった,イアン・マクドナルドと空前絶後の手数プレイを見せたドラマーのマイケル・ジャイルスがまず脱退.彼らはマクドナルド&ジャイルスを結成します.彼らはどちらかと言うと繊細でスタジオワークを好むアーティストで,キング・クリムゾンの激しさに疲れ切っていたと言われています.

またベース&ボーカルのグレッグ・レイクは,米国でさらに大きな刺激を受け,ナイスというバンドのキース・エマーソンと連絡を取り合い,後にエマーソン・レイク&パーマー(EL&P)を結成し,更に激しいライブ演奏をしていく事になります.

この状況の中,ロバート・フリップは新メンバーのオーディションを行い,ボーカル&ベースのゴードン・ハスケル,サックス&フルートのメル・コリンズ(後にキャメルに参加),ドラムスのアンドリュー・マックロック,既に英国ジャズ界で名のあったキーボードのキース・ティペットなどが次々と決まっていきますが,実際のレコーディングでは恐らく演奏の技量の問題などもあったのでしょうが,ドラムスをマイケル・ジャイルスに頼んだり,ベースに彼の弟のピート・ジャイルスを頼んだり,ボーカルも一部を除いてはグレッグ・レイクに歌ってもらったりと,とにかくしっちゃかめっちゃかの状態で進んでいきました.

こんな状態で制作されたアルバムであるにもかかわらず,前作のクオリティを見事に保った演奏のアルバムに仕上がっている(逆に言えば,保守的に前作を踏襲した内容になっている)のは,キング・クリムゾンというバンドが,ロバート・フリップという一人の人間によって完全にオーガナイズされた音楽ユニットである事の証明でもあります.

この時点でバンドは,イアン・マクドナルドを含めた才人達のコラボレートからカリスマとなる彼一人のものになっていくわけで,これはまさにMacintosh誕生前夜のAppleにおけるジョブスの様々な逸話にも通じる("Pirates of Silicon Valley"をご覧になった方なら分かる?)のではないでしょうか.

ジャケットは,前作のアートを担当したバリー・ゴッドバーが急逝したため,詩を担当しているオリジナルメンバーのピート・シンフィールドの友人タンモ・デ・ジョンという画家の"12 Archetypes"という作品が用いられています.(ジャケットの表裏に12人の老若男女が幽霊のように幻想的に浮かび上がっている様子)

曲の構成はA面冒頭にグレッグ・レイクのアカペラ歌唱で始まる"Peace - A Beginning"でスタートし,B面の冒頭で"Peace - A Theme",最後に"Peace - An End"で締める形のトータルアルバム,その間に大曲が入ります.特にA面後半のタイトル曲,"In the Wake of Poseidon",B面後半のホルストの惑星の火星をモチーフとした"The Devil's triangle"は前作の"Epitaph"や"The Court of the Crimson King"に劣らないプログレ界の名曲です.

普通なら一発屋バンドの2作目として消え入るようなアルバムになったかもしれないこのアルバム,そして後のキング・クリムゾンのプログレッシブな変化により,バンドのディスコグラフィーの一つとして命脈を保っているようにも思えるこのアルバムですが,実は前作のあまりの目映さの前に評価を低くしているだけであり,アルバムの出来としては名作に肩を並べても不思議ではないほどの厚みを持っています.

ただ,残念ながらバンドとして崩壊してしまった彼らは,ここから先さらなる混沌の時代へと突き進んでいきます.


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