GMしらいしが、CD棚からiTunes棚に移した音楽のコラムです。
極私的な内容で、不定期に更新します。


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File No.025
Mar. 29th 2004

King Crimson
Lark's Tongues in Aspic
(邦題:太陽と戦慄)

西洋の陰陽師の手による最高傑作

マックメムGMのしらいしです.

ながらくお休みして申し訳ありません.春になった事もあり心機一転,また少しずつ書いてみたいと思います.

1973年3月に発売されたアルバムです.デビュー作である「クリムゾンキングの宮殿」,70年代ラストアルバムの「レッド」と並んで,クリムゾンの代表作であり,現在も続く彼らの歴史の原点とも呼べる記念碑的な作品です.

"Earthbound"発表以降,一旦沈黙状態となったあと実はロバート・フリップは深い思索と新しいバンドのプランを練っていたようです.完全にこれまでとは違う新しいバンド,そしてそれを新しいキング・クリムゾンとしてスタートさせるため,精力的に彼は活動をしていました.その考えの中には,オカルト的な嗜好(指向,思考)がある事はこれ以降の作品を聞けば明らかで,儀式や詠唱的な要素を含んだ宗教的それも魔術とか秘儀といったダークサイドな力を感じさせるサウンドに変化していきます.

カルト,聴く者の心理や精神に訴えかける構成,緻密な音づくり,プログレの大きな特徴でもあるこうした音楽を実現するために集まったメンバーは,英国屈指のミュージシャン達.

なんといってもあのイエスのドラマーであるビル・ブラッフォードのキングクリムゾンへの加入は大きな驚きを持って新聞等でも取り上げられたようです.もともとイエスとクリムゾンという関係でいえば,イエスのボーカルであるジョン・アンダーソンがクリムゾンの"Lizard"にゲスト参加したり,アメリカでの公園でクリムゾンが前座,イエスがメインアクト(!)として共演している事もあり,メンバー間でのコミュニケーションをとる機会はあったようです.その中でビル・ブラッフォードはロバート・フリップの音楽感に心底共鳴してバンドへの参加を最終的に決断したと言われています.(余談ですが,ギャラ的には当時のイエスにいた方が遙かに良かった事は言うまでもありません.)

ベースギターとボーカルのジョン・ウェットンはロバート・フリップの旧友で,沢山のバンド経歴を持つ実力派のアーティスト.既に名のあるバンド「ファミリー」を辞めての参加です.情熱的というよりもクールな性格である彼はバンドの中での役割,そしてそれがやりがいのある仕事かどうかが大切なポイントであり,結論を出すまでにロバート・フリップとともに今後のプランについても長い話し合いを持ったようです.

パーカッションのジェミー・ミューアーは,英国のアンダーグラウンドシーンで活躍していたフリー・ミュージックのアーティスト.彼の音楽観もまたロバート・フリップの目指すオカルト的な音楽性と近く,ある意味この後のキング・クリムゾンの方向性を牽引する役割を果たす事になります.

最後に,ヴァイオリニストのデヴィッド・クロス.唯一無名である彼は,クリムゾン伝統のウィンド系楽器を担当するアーティストとして,またフリップのギターと対を成すメロディ奏者としての役割を与えられての起用です.

以上の新メンバーにロバート・フリップを加えた5人が新キング・クリムゾン.彼らがリリースしたニューアルバムが邦題「太陽と戦慄」として知られるこの作品です.

原題である,"Lark's Tongues in Aspic"は,直訳すれば「アスピックの中のヒバリの舌」アスピックというのは肉汁を固めて作ったゼリーで,日本で言えば煮凍りのようなものでしょうか.一体何のことなのか? 実際に邦題では「太陽と戦慄」という原題とは無関係な物が名付けられています.実は,原題の意味する所は男性と女性の性器のメタファーとの事.これは西洋の錬金術の重要なメタファーである男性原理の象徴としての太陽,女性原理の象徴としての月であるとも,ユダヤ教の秘教であるカバラの論理感を表しているとも言われています.いきなり西洋の世界の思想が出てくると難しいですね.

でも,東洋でも昔から陰陽の考え方がありますから,そういう意味では太陽:月,男性:女性といった見方を作品の主題として捉える考え方は良く理解できます.ここで重要なのが,新メンバーの構成です.ビル・ブラッフォード,ジョン・ウェットンの安定した,そして屈指の力量を持つリズム隊の上に,オカルト的要素をもたらすジェミー・ミューアーのパーカッションとそのパフォーマンス,そして男性の象徴としてのロバート・フリップの暴力的なギター,女性の象徴としてのデヴィッド・クロスのヴァイオリンの奏でる繊細なメロディー.

まず思想としてやりたい音楽があり,それに合致する最高のアーティストを起用したロバート・フリップの思惑,そしてそのパズルに綺麗に当てはまるメンバー達,この作品が周到に用意された計画の結実として,如何にクリムゾン史上重要な作品であるかが分かると思います.

タイトル曲である "Lark's Tongues in Aspic"はPart1とPart2に分かれていて,Part1は最初に,Part2は最後に収録されています.(かなり長いです)特にPart2のフリップによる強烈なリフで始まるイントロダクションとリズム隊の音の重なり,雰囲気が急に変わって,優しく包み込むようなクロスのヴァイオリンのメロディは聴き所です.また,名曲として名高い"Exiles"(邦題:放浪者)のギターになると,今度は哀愁まで漂うような泣きのギターを聞かせてくれます.

音楽の良いところは,作品のコンセプトがたとえ難解であったとしても,それを感覚的に捉えて,面白いと感じたり,感動できたりする所だと思います.多くの宗教が儀式において音楽や詠唱を使って独特の雰囲気の空間を作りだし,信者の潜在意識に深く語りかけていく手法そのものなのですが,キング・クリムゾンの目的はアーティストとして作品を作り,そのコンセプトを聞き手に伝える事までであり,その先に何か思惑があった訳では勿論無いでしょう.

ただ70年代のプログレアーティストの多くの活動は,ポップミュージックやR&Bにとどまらなず,ロックという音楽ジャンルがどこまで世界観や思想を汲み取ったアート作品に昇華できるのか? またその為の手法として他の様々なジャンルの音楽を取り入れたり,コンセプトとして大曲編成でのアルバムを構成したりを試行錯誤していた時代だったという事は言えると思います.

今はもう,そういうのは流行らないのかもしれないし,行き着いてしまった物なのかもしれませんが.


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