
GMしらいしが、CD棚からiTunes棚に移した音楽のコラムです。
極私的な内容で、不定期に更新します。
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壁 誰にでもあるもの 必ず崩せるもの マックメムGMのしらいしです. 1979年にリリースされたピンクフロイドのアルバムです. LPレコードでもCDでも2枚組.大作であり,セールス的にも,シングルカットされた"Another Brick in the Wall(Part 2)"が全米No.1を記録するなど大成功を収めています. このアルバムの重さ,深さは語り出すとキリがないほどなのですが,一応振り返ってみましょう.ピンクフロイド自身はそれまでも大ヒットアルバムを連発し,米国でも大成功を収めたプログレッシブロックバンドとして,名声は不動のものでした.ここでも以前取り上げた"Dark Side of the Moon(狂気)"をはじめ "Atom Heart Mother(原子心母)","Wish You Were Here(炎)","Animals" 等 いずれも傑作アルバムです. ちょうど,このアルバムの前作である"Animals"のワールド・ツアーでの事.演奏する彼らに対して,聴衆は「マネーをやれ!」と要求したそうです.(マネーとは"Dark Side of the Moon"に収録の大ヒットナンバー)リーダーであるロジャー・ウォータースはいつまでも過去のヒット曲ばかり要求するファンに辟易していました.そして最終日のモントリオールで事件が起こります.最前列で騒いでいる若者に,ついにロジャーは唾をを吐きかけてしまったのです. ロジャー自身も,自分がこんな事をしてしまった事にショックを受け,成功を収めた事で味わう苦い思い,疎外感を「壁」という形で捉え,それを人間と人間の間の超えられない心の壁として作品化しようと考えます.今話題の「バカの壁」も,コンセプトとしては似たようなものかもしれません.その人間が考える事,心の中を相手に100%理解してもらうのはまず不可能.もっと言えばまったくコミュニケーションが成立しないばかりか,意図とまったく反対の受け取り方をしてしまう場合もあるのです. この作品の中に取り上げられる「心の壁」はいろいろなものがあります.父親と子,母親と子,教師と生徒,友人間,男と女,演奏家と聴衆,国民と政治家,そして国と国.今上げた全ての要素が,ロックスターであるピンクの目から見た「壁」として,あるいは心象風景として散りばめられています. ライブでは,ロック史上に残る壮大なステージが展開されます.丁度アルバムの1枚目は,様々な出来事によりピンクとその他の人々の間に壁が築かれるまでが描かれ,2枚目ではその壁の内側の心象と,最後にその壁が突き崩されるわけですが,ステージでも同様に演奏が進むにつれて,客席の前にどんどん煉瓦の壁が積み上げられていき,完全にステージと観客席は壁によって仕切られてしまうのです. この模様は,1990年にベルリン(!)のポツダム広場で再演されたロジャー・ウォータースの「ザ・ウォール・ライブ」で映像で見る事ができます.これはベルリンの壁崩壊直後に行われたイベントなのですが,人々の心に如何に「ザ・ウォール」が深い印象を残したかが分かります. また,この作品は1982年にアラン・パーカーの手による映画としても公開されています.ピンク役はライブ・エイドを主宰したブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフ.ピンクの狂気を演じる上で最高にハマリ役.上記2作品とも今はDVD化されています. ザ・ウォールは,音楽としてのアルバム,ライブ,映画という3つを含めてトータルなコンセプト作品として制作当時から考えられていました.こうした意図をもって作品を作れるのが,当時のピンク・フロイドの凄さでもあります. さて,私はこのアルバムと映画をココロのクスリとして使っていた事があります.美しいメロディとロジャーのウィスパーボイスに癒され,映像の中のピンクに自分自身を重ねる事で,うまくいかない事,人と人の間にある壁を実感しながら,最後に突き崩されるその壁が,それまでの心の閊えをすーっと開放してくれます. ポツダム広場でのライブも,東西ドイツの若者達が一緒になり(おそらくヨーロッパ中から集まった他の国の人達も合わせて)壁が崩れた事によって解き放たれた喜びに満ちあふれた表情がとても印象的です. 壁は誰の間にもある.そして壁は崩す事が出来る.それがロジャーの到達した一つの真理なのかもしれません. |
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